第十三条
確かなる掛け売り商内より利の少きやかましき現金売り大いにまされり、商内はちといやしき品の方こそよきものなり。上品めきたる人、商売にうとし。況んや商人を賤しく思い、儒者、俳人をうらやみ、軽き武家になりたきなどと心のつくは、大病をうけたる也。
この条文(一三)は、「商人としての心構え」や「職業観」に対する強い道徳的・実践的な教えが込められています。以下に現代語訳と解説を示します。
第13条
たとえ利が少なく、手間がかかって面倒な現金取引であっても、確実に支払いを得られる掛け売りの商売よりもはるかに勝っている。
商売の品は、少し卑しい(庶民的な)ものである方が、実のあるよい商売になる。
上品ぶった人は商売に疎いものだ。ましてや、商人という身分を卑しく思い、儒者や俳人をうらやみ、武士のような軽い存在になりたいと思うような心を抱くことは、まさに大きな病にかかったようなものだ。
解説
この条文では、商人に対して以下のような重要な価値観の転換を説いています。
1. 現金売りの価値を認めよ
- 掛け売り(信用取引)は利が大きくても、回収に不安がある。
- 現金取引は利が少なく手間がかかっても、確実性がある分、はるかに優れている。
- 確実性・堅実さが商いの基本であるという教訓。
2. 「いやしい品」=庶民向け商品の重視
- 高級品や体裁の良いものよりも、庶民向けで日常的に求められる品のほう が商売としては堅実。
- 見栄より実利をとるべきだという現実的な視点。
3. 職業への誇り
- 商人であることに誇りを持ち、他の身分(儒者・俳人・武士)に憧れる のは誤り。
- そうした憧れは、職業倫理を損ない、商いに身が入らず、自滅を招く「心 の病」であると厳しく戒めている。
現代的な意味合い
- 「確実な利益と信用」を第一にせよ:無理に大きな利益を狙うより、確実 に現金が回る取引を重視することの大切さ。
- 「見栄を捨て、実を取る」精神:ブランドや上品さにこだわるのではなく、実際に需要のある品で堅実に商売すべし。
- 「職業に貴賤なし」:自らの仕事に誇りを持ち、他業種をうらやんで自分を貶めるな、という普遍的な職業倫理。
コメントを残す