第六条
万(よろず)の仕損じものを軽しむるより、出来ざるがよし。又、十が六、七迄言葉を慎まぬより出づること多し。舌は禍の門と申し伝えたり。珍らしき人には勿論、至極心安き人にも一寸いんぎんならん方こそよけれ。何によらず人並みに口上すべし。先様(さきさま)を強いて興じさせんとするが故に障ることあり。口上は細川を舟で漕ぐ様に、寄らず、さわらずに梶を取りたし。偶々(たまたま)、戯(ざ)れおどけも挨拶ばかりにて手前は面白からぬ様に、然(しか)も戯れは至極加減ものなり。
この文は、「言葉遣いや態度の慎み」についての非常に細やかな教訓です。失敗の多くは、口の軽さや無用な饒舌から生まれるという観点から、対人関係における言動の心得を説いています。
第6条
あらゆる失敗を軽く考えるよりも、いっそ最初から手を出さないほうがよい。
また、十のうち六、七は、言葉を慎まなかったことから起こるものである。
「舌は禍の門(わざわいのもん)」と昔から言い伝えられている。初めて会うような珍しい人にはもちろんのこと、たとえ非常に親しい人に対してでも、少しは丁寧で礼儀正しい態度をとる方がよい。
どんな相手にも、世間並みの礼儀をもって話すのがよい。相手を無理に楽しませようとすることで、かえって問題が生じることもある。
会話の仕方は、細い川を船で漕ぐように、岸に寄らず、触れず、そっと舵を取るように行うのがよい。たまたま冗談を言ってふざけるとしても、ほんの挨拶程度にとどめ、自分は面白がっていないような顔をしているくらいでちょうどよい。
冗談というものは、非常に加減の難しいものである。
解説ポイント
- 「仕損じものを軽しむるより、出来ざるがよし」
→ 軽々しく物事に手を出して失敗するくらいなら、最初からやらない方がまし。 - 「十が六、七迄言葉を慎まぬより出づること多し」
→ トラブルの6~7割は、言葉の不用意さから起こるという分析。 - 「舌は禍の門」
→ 古くからの諺。「口は災いの元」に通じる言い回し。 - 「一寸いんぎんならん方こそよけれ」
→ 親しい相手にも少しは丁寧に接するべきだというバランス感覚。 - 「細川を舟で漕ぐ様に」
→ 会話は慎重かつ控えめに。余計なことを言わず、さりげなく進めるべきという比喩表現。 - 「戯れは至極加減ものなり」
→ 冗談は加減がとても難しく、失礼や誤解を招きやすいので慎重に。
要点まとめ
- 失敗を恐れて慎重になることは恥ではない。
- 不用意な言葉は多くの災いのもと。
- 親しい人にも礼儀を忘れず、適度な距離感を大切に。
- 会話や冗談は控えめに、余計なことは言わぬが吉。
まさに現代でも通じる「言葉の慎み・距離感の美学」を説いており、 SNS時代にも響く内容ですね。
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