第三条

道というにも、【堯舜】、孔子の道、老子の道徳、神道、仏道夫々の道に少しづつ差別ありて、仁義と言い、忠孝と言うも、書籍の上にては様々子細有れど、百姓町人の身にては誠ありて、善事を好み、悪しき方へ赴かんという一通りにて皆済むことなり。忠は主人を大切にし、孝は親を心安らかに喜ばせるなり。【慈悲の善悪】とて、いたずらに金銭を施すことにてもなし。万に思いやりのあることこそよけれ。

第3条

「道(生き方・人の道)」と言っても、例えば堯・舜(古代中国の理想的  な聖王)、孔子の儒教、老子の道徳(道家)、神道、仏教と、それぞれに多少の違いがある。「仁義」や「忠孝」といった言葉も、書物の上ではいろいろと細かい理屈があるが、農民や町人のような一般庶民の立場においては、まごころを持ち、善い行いを好み、悪い方向へは進まない——その一点を心がければ、それで十分である。「忠」とは主君や雇い主を大事にすること、「孝」とは親を安心させ、喜ばせること。「慈悲」や「善行」というものは、ただむやみに金品を施すことではない。何より大切なのは、どんな場合にも思いやりの心を持つことである。

解説ポイント

  • 堯舜・孔子・老子:中国古代の理想的君主・思想家たち。それぞれ異なる道(生き方や政治理念)を説いた。
  • 神道・仏道:日本の宗教的な「道」。神道は日本固有の宗教、仏道は仏教の教え。
  • 仁義・忠孝:儒教の徳目。道徳の基礎。
  • 百姓町人の身にては:ここでは「庶民の暮らしにおいては」という意味。
  • 思いやりのあること:物質的な施しよりも、心のあり方が重要だと説いている。

全体として、宗教や道徳の理屈にとらわれず、誠実に、善意をもって生きることが最も大切だという庶民道徳の立場からの教えです。


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